「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討-大橋毅(弁護士)


2019/12/28/20:02:00

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「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討


大橋 毅
東京弁護士会所属弁護士(42期)
クルド難民弁護団事務局長
日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員(難民特別部会)


1 「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」(*1)は、餓死した被収容者が窃盗の前科があったから仮放免許可をしなかったと説明しています。しかし、国籍国と強制送還の方法について交渉中だったから強制送還できなかったとも説明しています。餓死者は「送還忌避者」ではなく、「送還不能者」だったのです。入管による収容は、犯罪防止のための予防拘禁ではなく、送還の準備であるはずです。送還の予定が立たないなら、解放するべきでした。
  過去の犯罪を理由に強制送還されることはあるかもしれませんが、送還ができない場合に、それがただちに、解放が許されない危険な存在ではありません。

2 収容は3年7ヶ月を超えて、更に期限がなく続いていました。窃盗前科で終身刑が科されたようなもので、不当です。さらに、死んでも解放しないというのであれば、窃盗前科で死刑が科されたようなものです。
  窃盗の前科のある日本人にこのような扱いがされることはありません。平成の30年間だけで、日本で起訴された人は約2518万人おり、このうち初犯者を60%と仮定しても、1511万人が、平成の間に新たに「刑事被告人になったことがある人」になりました。成人人口の約15%です。法務省は、ホームページの「再犯防止に向けた総合対策」(*2)では「再犯防止は、ひとたび犯罪に陥った人を異質な存在として排除したり、社会的に孤立させたりすることなく、長期にわたり見守り、支えていくことが必要である」と訴え、「国民の理解や具体的な支援・協力を促進する」と述べています。
  根底に外国人差別があるのではないでしょうか。

3 長期無期限の収容は、拷問・虐待に当たります。
  医師は、拷問を黙認してはならず,拷問に同席してはならないと、世界医師会の東京宣言が述べています。(*3)
  また,収容の継続が健康上の有害な影響を与えているとき、医師は収容所に報告するべきです。(マンデラ・ルール(国連被拘禁者処遇最低基準規則)33項)(*4)(*5)
  収容所の被収容者の惨状を診た医師は、長期収容が精神的健康を害するほどの精神的苦痛を与えている現状を、施設に指摘するべきでした。

4 「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」は、今後は強制治療によって解決する提案をしています。強制治療は、医師の倫理に反します(医師の倫理に関するマルタ宣言)。医師は医療判断について収容所から独立性を持つべきで、そもそも、入管が医師の行動を規律するべきではありません。刑事施設等におけるハンガーストライキの取扱について、医師会、医療専門職、医療倫理専門家によるルール・プロトコルが作成されているべきです(医師の倫理に関するマルタ宣言)。(*6)

5 今回の件で、餓死前の7日間、医師は本人の診察をしていません。これは重大な問題です。
  ハンガーストライキの重大な時期における医師の第一義的な役割は,治療ではなく状況の把握です(マルタ宣言)。
  被収容者が判断能力を持って拒食をしているかどうか把握し、もしも判断能力が失われているなら、治療をすべきです。また、どの程度生命が危険な状態かを把握して、本人と収容施設に知らせ、状況を踏まえた判断をさせる必要があります。
  それなので、治療を拒否されても、医師による毎日の面接が必要です。
  調査報告書には、「医療の素人である看守職員には、やせているのを見ても、どれだけ死の危険があるか判断ができなかった」とあります。だからこそ医師の面接が必要なのであり、それを実施しなかった収容施設に問題があります。

5 調査報告書は、過去に他の被収容者が暴れた事件を原因として、医師が医務室以外で診療をしなかったと説明しています。
  そもそも医師と被収容者の信頼関係がないことを示す事実です。餓死するような重大な状況で診察ができないなら、被収容者を解放するべきです。
 また、治療ではなく,状況を把握しなければならないと説明すれば、被収容者も診療室に行くのを拒否しなかった可能性もあります。 

6 調査報告書によれば、医師でなく職員が「ハンストを止めるように」「診療を受けるように」と説得しています。しかし、現状において、被収容者と職員には、そもそも信頼関係がないので、反発を受ける可能性があることを考慮するべきです。また、職員が抑圧的な言い方をした疑いがあります。

7 そもそも、死因調査が独立機関によってなされなかったことそれ自体が、不適切です。(マンデラ・ルール(国連被拘禁者処遇最低基準規則)71項)





*1  法務省「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」 http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri09_00050.html

*2 法務省「再犯防止に向けた総合対策」http://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00005.html

*3  WMA "Declaration of Tokyo - Guidelines for Physicians Concerning Torture and other Cruel, Inhuman or Degrading Treatment or Punishment in Relation to Detention and Imprisonment"(世界医師会「東京宣言―拘留および監禁に関連した拷問およびその他の残酷、非人道的または品位を落とす扱いまたは処罰に関する医師のための指針」)

*4   Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners 

*5   国連被拘禁者処遇最低基準規則「ネルソン・マンデラ・ルールズ」日本語版( 特定非営利活動法人監獄人権センター(Center for Prisoners’ Rights))http://www.cpr.jca.apc.org/news/2016-12-22t000000-147

*6    WMA "Declaration of Malta on Hunger Strikers" 



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